造山古墳を後にし、自転車で来た道を戻る。吉備路の緑を横目に走っていくと、やがて田園のただ中に五重塔が姿を現す。備中国分寺だ。


自転車を停め、山門をくぐって境内に足を踏み入れる。正面にそびえる塔は、外から見ても迫力があるが、中に入って眺めると、木組みや彫刻の一つひとつに精緻な技が込められていることがわかる。塔の四方を回り込みながら、いくつもの角度で写真を撮った。光の加減や背景の緑との対比によって、その表情が変わるのが面白い。


さらに目を凝らすと、初層外部の装飾に十二支の禽獣彫刻が施されているのに気づく。四方向に三つずつ、干支の動物たちが順番に配置され、塔を守るように並んでいた。その細やかな造形に、江戸期の大工や彫師たちの技と信仰の深さを感じ取る。

案内板に目をやると、この五重塔の内部には数多くの木造が安置されていると記されていた。普段は非公開で内部を直接見ることはできないが、想像を膨らませるだけで十分に心を動かされる。建立は江戸後期の天保年間、完成は弘化元年(1844年)とある。岡山県内で唯一現存する五重塔であり、重要文化財にも指定されているという。

塔を見上げると、空はすでに夕刻へと移ろい始めていた。稲穂の向こうに見える五重塔の姿は、まさに吉備路を象徴する風景であり、その足元に広がっているのは、この土地が古代から続く営みを伝えている証のように思えた。

やがて空が赤紫に染まり、稲穂と雲と塔が重なり合う。時代を超えた歴史と今日の暮らしが交わる瞬間を、写真に収めながら心にもしっかり刻んだ。

塔を仰ぎ見ているうちに、周囲の田んぼの一角に赤みがかった稲穂が揺れているのに気づいた。普通の稲よりも背丈はやや低く、穂先は紫がかった赤色を帯びている。近づくと、一粒一粒がほんのりと赤紫に染まり、細い毛のような芒が風に揺れていた。これが吉備路を象徴する「赤米」だ。

赤米は古代米の一種で、古墳時代や奈良時代に祭祀に用いられたと伝わる。まさに造山古墳や国分寺と同じ歴史の時間軸を生きてきた作物であり、今もこうして田に息づいていることに感慨を覚える。五重塔と並んで眺めれば、千数百年を越える時の流れが一枚の風景に収まるようで、まるで過去と現在を橋渡ししているかのようだ。

やがて太陽が西の空に傾き、赤米の穂は夕陽を受けて輝き出す。緑の稲穂の中に赤紫が浮かび上がり、その向こうに五重塔がシルエットとなって立ち現れる。息をのむほどの光景だった。
夕焼けに包まれた吉備の大地は、どこか懐かしさを伴いながらも、新鮮な力強さを放っていた。レンズを向け、何度もシャッターを切る。写真に収めた光景は確かに一瞬のものだったが、そこに込められた時間は、古代から連綿と続いてきた人々の祈りや暮らしに通じているように思えた。

赤米と夕日の中で浮かび上がる国分寺五重塔――その姿は、この吉備路という土地がもつ豊かさと歴史の深さを、何より雄弁に語っていた。
文:caritabito