一
山々に囲まれた広い盆地に、二つの村があった。
川を挟んで向かい合うその村は、かつて一つの集落から枝分かれしたものだった。
川の東側にあるのは「対決の村」。
西側にあるのは「包摂の村」。
両者は同じ祖先を持ちながらも、歩んだ道は大きく異なっていた。
二
対決の村では、子どもが小さな遊びをするにも勝敗がつきまとった。
石投げで誰が一番遠くまで飛ばすか。
かけっこで誰が一番早いか。
集会に集まる大人たちもまた、声を張り上げ、互いを論破し、勝った者がその日の決定権を握った。
「正しき者が治めるべきだ」
それが村人たちの誇りであり、合言葉だった。
最初のうち、村は活気にあふれた。決定は早く、挑戦は次々に生まれた。
しかしやがて、勝者と敗者の間に見えない溝が生まれた。
負けた側は声を失い、集会に来なくなった。
勝つ者はますます誇らしげになり、負ける者はますます肩身を狭めた。
やがて村には、誇り高き少数と、沈黙した多数しか残らなくなった。
田畑は荒れ、家々はほころび、川にかかる橋でさえ修復されぬまま朽ちていった。
三
一方、包摂の村では、やり方がまるで違った。
集会では、まず全員が話を聞き合った。
結論に至るまでに時間はかかった。
太陽が沈んでも議論は続き、ランプの灯りの下で互いの声を聞き合った。
「あなたの考えにも一理ある。わたしの考えにも理由がある。ではどうすれば良いか」
結論は、どちらの意見も完全には通らないが、どちらも否定されることはなかった。
外から見れば遅く、退屈で、決断力に欠けるように見えた。
けれども村には不思議と笑顔が絶えず、誰も置き去りにされなかった。
時間をかけて決めた計画は長続きし、家も畑も安定して発展した。
人々は互いの違いを知りながら、同じ屋根の下に暮らす方法を学んでいった。
四
ある年の夏、両方の村を一人の旅人が訪れた。
背に古びたリュックを背負い、杖をついた年配の旅人である。
彼はまず、対決の村に足を踏み入れた。
そこには、かつて栄えた面影はなかった。
立派だった会議堂は壁が崩れ、広場には雑草が伸び放題。
数少ない人々は互いに目を合わせることなく、勝者と敗者に分かれた沈黙の中で暮らしていた。
旅人は胸の内でこうつぶやいた。
「力はあった。だが心を失ったのだな」
次に包摂の村へ向かった。
こちらも華美な繁栄があったわけではない。
だが、田畑は整い、子どもたちの笑い声が広場に響き、家々からは夕餉の香りが漂っていた。
人々は集会に集まり、灯りを囲んで話し合っている最中だった。
旅人は微笑みながら言った。
「ここには未来がある。時間はかかっても、人が人として生きる道がある」
五
その夜、旅人は宿で古い日誌を開き、こう書き残した。
「対決は燃える火である。
包摂は灯る炎である。
前者は夜を一瞬だけ照らし、やがて灰と化す。
後者は小さくとも、長い旅路を導き続ける。」
六
やがて二つの村の話は遠くまで語り継がれた。
「対決の村」は人の心を荒廃させる象徴として、
「包摂の村」は成熟と共生の象徴として。
子どもたちは聞かされた。
「勝ち負けだけを求めれば、皆が不幸になる。
違いを認め合い、折り合いをつけて進むことが、人を大人にするのだ」と。
七
それから何世代も経ち、人々は二つの村の教訓を心に刻みながら生きるようになった。
時に争いは避けられなかったが、そのたびに包摂の村の物語が語り直された。
人は退化も進化もする存在である。
どちらの炎を選ぶか――それこそが人間の成熟を決める道だった。
文:caritabito