キャリア相談の場にいると、クライエントの言葉の一つひとつに、つい「意味づけ」をしてしまう瞬間がある。
「転職を迷っている」と聞けば「決断できない人」と思ったり、
「上司と合わない」と聞けば「人間関係が苦手なのだろう」と解釈してしまったり。
それは人間の自然な反応だ。
限られた時間で相手を理解しようとすれば、頭の中でラベルを貼ることは避けられない。
けれど、相談の場で大切なのは「事実」をそのまま受け止めることだと思う。
レッテルを貼ってしまうと、その後のやりとりが狭い枠に閉じ込められてしまうからだ。
たとえば「仕事にやりがいを感じない」という発言。
そこから「この人は飽きっぽい」と解釈すれば、支援の方向は早々に決まってしまう。
だが、実際には「上司の評価基準が不透明で努力が見えにくい」ことが背景かもしれないし、
「ライフイベントの変化で価値観が揺らいでいる」のかもしれない。
同じ言葉でも、事実と背景は人それぞれなのだ。
相談者の語りを受け止めるときの心構えとして、私は三つのことを意識している。
1.事実と解釈を切り分ける
「〇〇さんは『やりがいがない』と感じている」――これは事実。
「だからすぐに転職したがっているのだろう」――これは私の解釈。
頭の中でこの線を引いておくと、余計なラベルに流されにくい。
2.一呼吸おく
相手の言葉を聞いてすぐに返すのではなく、間を大切にする。
「今の発言は事実? 感情? それとも価値観?」と内心で確認する。
その小さな間が、相手がさらに語る余白を生み出す。
3.好奇心で聴く
「なぜそう感じたのか?」を探りたいとき、批判ではなく好奇心を持って耳を傾ける。
好奇心は相手に安心感を与え、「もっと話してみよう」という気持ちを引き出す。
レッテルよりも問いかけを大事にする姿勢が、相談を深める。
キャリア相談の現場で、事実をレッテル貼りせずに受け止めることは、支援者にとっての修練だ。
簡単ではない。私自身も、思い込みや先入観に引き寄せられることがある。
けれど「一歩引いて、事実を事実として見る」姿勢は、相談者にとっての安心と信頼を育てる。
事実を澄んだ眼で受け止め、解釈は相談者自身の言葉から導き出される。
そうした関わりの積み重ねが、キャリア支援の土台になるのだろう。
文:caritabito