テレビCMの一場面が妙に心に残った。

――「お兄ちゃんは、上手く生きられたら楽しい?」
――「楽しいと楽(らく)って、同じ漢字だけど違う気がする」

短いやり取りなのに、この言葉には「生き方」や「働き方」の本質を問う力がある。

「楽(らく)」は、無理をせず、できるだけ摩擦のないように生きること。だが「楽しい」は、必ずしも「らく」から生まれるわけではない。むしろ挑戦に夢中になり、汗をかき、頭をひねり、失敗や葛藤をくぐり抜ける中でこそ心の底から感じられるものだ。

心理学でいう「フロー(flow)」もそうだろう。難しさと自分の力が釣り合ったとき、人は時間を忘れるほど熱中し、充実感を覚える。そこにあるのは「らく」ではなく、「楽しい」という実感だ。

キャリアの場面でも同じだと思う。
「できるだけ楽な仕事を選ぶか」
「多少しんどくても夢中になれる仕事を選ぶか」
この分岐点に立たされる瞬間は誰にでもある。安定や安心は大切だが、人生を支える満足感は「熱中」や「やりがい」から生まれることが多い。

だから、自分にとっての「楽しい」を知ることが、キャリア形成の大きな指針になる。楽(らく)と楽しい――同じ字を持ちながら、まったく違う人生の風景を映し出す。

あのCMの一言は、私たち一人ひとりへの問いかけのように響いてくる。
「あなたにとって、楽しいとは何ですか?」

文:caritabito