ある村の市場に、ひときわ声の大きな商人がいた。
彼は毎日、店先で取引を持ちかけ、値を吊り上げたり下げたりしては、相手を言い負かすことを楽しみにしていた。取引が終わると必ず胸を張り、「今日も自分が勝った」と誇らしげに言う。その姿に群衆は拍手を送り、笑い声が広場に響いた。
だが広場の片隅には、長老が腰を下ろしていた。背筋は曲がっていたが、その眼差しは遠い時代を見ているように深かった。彼はめったに声を荒らげず、静かに話すだけだった。
ある日、商人が「見たか、この取引! 相手を打ち負かし、儲けも手に入れた!」と叫んだとき、長老はふと口を開いた。
「取引は今日を決める。だが、歴史は百年を決める。」
商人は笑った。「何を言う、百年後の話など誰が気にする? 大事なのは今日勝つことだ!」
人々もまた、一瞬は商人の勢いに頷いた。だが長老の言葉は、じわじわと胸に残った。
長老は続けた。
「この土地も、我らの祖父の代には荒れ野だった。井戸を掘り、畑を耕し、何十年もかけてようやく村が栄えた。日々の取引に一喜一憂することも必要だろう。だが、村を形づくってきたのは、一日の勝ち負けではなく、年月をかけて積み重ねられた歩みだ。」
群衆は静まり返った。商人の胸を張る姿が、急に軽く見えた。
商人は不満げに肩をすくめ、「まあいい、私は今日の勝利で満足だ」とつぶやいた。そして再び市場の喧騒に紛れた。
その日も商人は満足に浸り、長老は遠くの山並みを眺めながら黙して語らなかった。
けれど村人たちは次第に気づいていった。声の大きさに引き寄せられることはあっても、村を守り導くのは、長く根を張る言葉の重みだということに。
取引は一日の勝利をもたらす。だが、歴史を動かすのは百年を見据える信念である。
声の大きさで勝ち誇る者と、歴史を背負い信念で語る者。その対比は、いまの国際政治の風景にそのまま映し出されている。
文:caritabito