「まさか自分が」という思い込みが、命取りになることがあります。
一昨日、カムチャツカ沖で発生した大規模地震。日本各地に津波警報が出されましたが、報道によれば、速やかな避難が行われ、大きな混乱もなかったとのこと。

こうした行動の背景には、あの東日本大震災やコロナ禍で私たちが学んできた「備える力」があるのではないでしょうか。

今回の地震を機に、私はある心理的なクセ——「正常性バイアス」について、あらためて考え直してみたくなりました。

◆「まさか自分が…」という思い込み
「正常性バイアス」とは、都合の悪い情報をつい無視したり、軽く見てしまったりする心理的な傾向のことです。簡単に言えば、「自分は大丈夫」「そんなこと、起こるわけがない」と思い込んでしまう心の働きです。

たとえば、地震の避難指示が出ても、「まだ揺れていないから平気」と自宅にとどまったり、感染症が広がっていても「自分は若いから感染しても大丈夫」と油断したり——思い当たる節、ありませんか?

実はこのバイアス、人間がストレスから自分を守るための、いわば“心の安全装置”のようなものなのだそうです。すべての情報にいちいち反応していたら、心がもたない。だから「大したことない」と思い込んでしまうのです。

でもそれが、災害や事故、感染症のような「非常時」には、危険な足かせになることがあります。

◆座ったまま逃げ遅れた人たち
私が忘れられないのは、2003年に韓国で起きた「大邱地下鉄放火事件」です。放火によって車内が煙に包まれたにもかかわらず、多くの乗客がその場に座ったままだったといいます。口や鼻を押さえながらも避難せず、結果として多くの人が犠牲になりました。

「まさか自分が死ぬわけがない」「周りの人も逃げていないから大丈夫」——そう思ってしまったのでしょう。これも、正常性バイアスのなせるわざです。

私たちは、非常時になると「日常の続きのように振る舞いたくなる」傾向があるそうです。でも、状況は変わっている。ならば、私たちも変わって動かなくてはなりません。

◆問い直す力を持つということ
では、どうすればこのバイアスに負けずに行動できるのでしょうか。

一番大切なのは、「自分もそういう思い込みをしてしまう存在なのだ」と知っておくことです。

「本当に、これでいいのか?」
「今の私は、ただの思い込みで動いていないか?」

と、心の中で小さく問いかけてみること。

周囲の動きに流されすぎず、警報や注意報をしっかりと受け止めて、「最悪の事態」を少しだけ想像してみる。それだけで、行動は大きく変わるはずです。

◆適切な避難ができたという希望
実際、そうした“問い直す力”が少しずつ社会に根づいてきたのかもしれません。

一昨日、カムチャツカ沖で大きな地震が発生し、日本の広い地域に津波警報・注意報が出されました。幸い大きな被害には至りませんでしたが、各地で速やかな避難行動がとられ、多くの命が守られたようです。

報道では「9.11東日本大震災の教訓が活きた」とも伝えられています。あの時の痛みが、確かに次の行動に活かされている——それは、小さな希望でもあります。

◆「慣れ」が怖い、今こそ
コロナ禍を経た今、私たちは少しずつ元の生活を取り戻しつつあります。しかし、その「慣れ」こそが油断を生む温床でもあります。災害、事故、感染症、サイバー攻撃——あらゆるリスクは、日常のすぐ隣にあります。

だからこそ、これからも「自分に限っては大丈夫」という思い込みに、ご用心。

ちょっとした心のクセに気づき、もう一歩だけ慎重になる。それだけで、私たち自身も、大切な誰かも、守れるかもしれません。

文:caritabito