旅の3日目の朝、私たち夫婦は「萩八景遊覧船」に乗ることにした。どうしても一番乗りしたくて、営業開始の9時より早く乗船場へ向かったところ、無事に最初の客として到着。しばらくして、熊本から来られたというご夫婦が現れ、私たち4人での乗船となった。

乗船場は、萩城跡(指月城)のふもと、指月橋のたもとにある。10人ほどが乗れる小さな屋根付きの観光船は、早くから待っていたことを知った係の方のはからいで、定刻の10分ほど前に出発していただけることになった。

まずは橋本川を上流へと進む。両岸には歴史ある町並みが広がり、平安古や堀内といった重要伝統的建造物群保存地区の白壁や松並木が、川面からは美しい角度で望める。途中、「釣りバカ日誌12」のロケ地となった屋敷も見え、萩の風情がゆったりと流れていく。

船を操るのは、75歳を超える現役の船頭さん。「後期高齢者ですが、まだまだ元気にやってます」とにこやかに語りながら、萩の歴史や町の移り変わり、地元の行事などを軽快な口調で語ってくれる。前日に行われた参議院選挙の話題まで飛び出すほどのざっくばらんさが楽しい。さらに、ハーモニカを取り出しての演奏まで披露してくださり、旅の朝に小さな音楽会が加わった。

旧田中別邸の先でUターンした後、船は出発点の指月橋付近まで戻る。そこで通常の遊覧は終了するのだが、この日は天候に恵まれ、そのまま海へと向かう特別なルートに進んでいった。

川から海へと出る直前、ひとつだけ低い橋があり、ここで初めて屋根が電動でスッと下がった。これまではそのような場面はなかっただけに、突然の変化に小さなどよめきが起きる。乗客も身をかがめ、橋の下を無事通過すると、いよいよ海へと出た。

沖合で船が停まり、船頭さんが「箱眼鏡で覗いてみましょう」と声をかけてくれた。船縁から海面を覗くと、小魚が群れをなし、岩陰にはウニの姿も。萩の海の澄んだ透明度と、静かにゆらめく海中の世界に、しばし見とれる。

顔を上げれば、菊ヶ浜の浜辺には、多くの海水浴客の姿。沖合から眺める海岸線と、波と戯れる人々の様子は、旅の記憶に残る夏の風景だった。

川と町、海と自然、日常と歴史。そのすべてがゆったりと織り交ぜられた約40分の遊覧船の旅は、水の都・萩の多面性を感じられるひとときだった。強い日差しのなかでも、船上に吹く風は涼やかで、朝のひとときを爽やかに彩ってくれた。

文・写真:caritabito